Mysterious Lover
16. 誘惑のmidnight

「で、結局整備不良ってことしかわかんないわけ?」

憮然とした表情のまま、翠はくるくるっと器用にフォークにパスタを巻き付けた。
カフェの窓の外、急ぎ足で行きかうサラリーマンやOLを眺めながら、わたしはため息とともに頷く。

「うん。そうみたい」

エレベーターの事故から3日、メーカーが検査をしたけれど、ワイヤーの劣化、ということで決着してしまった。
なんだか消化不良のような、嫌な気持ちが胸に残ってる。

「警察からは? 何か言ってきた?」

「うーん……一応話を聞いてもらったんだけど」

結局、やっぱり直接的な被害がないと動けない。ということだそうで。
自宅付近の警邏を強化してくれる、ということくらいしか進展はない。

「誰かわかんないってのが、一番気味悪いよね。普通、好きだったら直接行動起こしてきそうなものだけど」
翠の言葉にうなずいて、パスタをつっつく。

そう。だから、犯人が女っていう可能性も捨てきれないのよね。

嫌がらせの範疇はすでに超えてると思うし、自分がそこまで誰かに憎まれてるとは……考えたくないけど。
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