Mysterious Lover
26. 魅惑のスペアリブ

「着いたぞ奈央」

工藤さんの言葉で、アウディの助手席から外を見た。
「あの……工藤さん、ここって……」

ずっとぼんやりしていて、車がどこを走っているか全く確認していなかったわたしは、そこがコンクリートで固められた地下駐車場であることを知って、かなりうろたえた。

てっきりレストランだと思ってたのに……。
見覚えのあるそこは、まぎれもなく中目黒にある工藤さんの自宅マンションの地下だった。

「今日は偶然車で来てたから。外だと飲めないだろ?」

「はぁ……そうですよね」

「奈央?」
促されて……駐車場に降りたった。

工藤さんは、わたしがついてくることを1ミリも疑ってないようで。
振り返ることなく、さっとエレベーターへ向かっていく。

ここに来るのは、初めてじゃない。泊ったこともある。

でも……
今は、やっぱり避けたい場所だった。

……仕方ない。
工藤さんにつきあって、ワイン1本は飲むとしても。
あとは何とか口実作って失礼して、電車で帰ろう。

自分を納得させてから、工藤さんの背中を追いかけた。
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