こい


仏壇に手を合わせてからリビングに移動する。
おじさんおばさんが窮屈そうに座布団の上を移動する中に、春之もいた。


「おお!久しぶり!」

「どうもどうも。ご無沙汰しております」

大きな声の挨拶が飛び交う中、春之は私を見てふわっと目を細めた。
結婚前とまったく変わらない春之だった。

だけど私の方は、前みたいに笑顔を返すことができず、目を伏せて黙って母の隣に座った。



「あいちゃん、何飲む?オレンジジュースとコーラと、あとお茶もあるけど」

紗英さんがグラスを片手に聞いてきた。

「あ・・・お茶ください」

「あい、お茶飲めるの?」

母が驚いて声を上げた。
紗英さんがお茶と言ったのは緑茶だったからだ。

私は苦いのが嫌いで、コーヒーや緑茶は飲めない。
飲めてもせいぜいほうじ茶やウーロン茶だ。
これは子どもだったせいではなく、今でも変わらないから好みなのだろう。
オレンジジュースは今でも大好きだ。

だけど紗英さんに「オレンジジュース」と言うことができなかった。
ひどく子どもっぽい気がして。
それを悟られたくなくて。

「大丈夫」

母は納得していなかったけど、紗英さんは私の言葉を尊重してなみなみと緑茶を注いでくれた。

しなしなしたエビフライに箸を伸ばせばソースを取ってくれる。
届かないお刺身のお皿を回してくれる。
食べ終わる頃にはアイスクリームまで勧めてくれた。
紗英さんのおかげで、座った座布団から一歩も動かないまま、私は食事を終えた。



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