俺様作家に振り回されてます!
だから、『主人公が乗る外国車を試運転したい』って言われたら、レンタカーを手配したし、『ストーリーの確認のため、検死官に会いたい』って言われたら、学生時代のつてを頼って、友達の友達の検死官に先生と会ってくれるよう交渉したし。

で、いったい今日はどんなわがままなのっ!

私は先生の番号に電話をかけ、スマホをスピーカーにしてカップホルダーに立てた。イグニッションキーを回した時、先生が電話に出た。

『マキ、今どこ?』

このわがまま作家は私を呼び捨てにするのだ。まあ、あちらは大先生様だから、三十四のいい大人の女性を呼び捨てにしてもなんとも思わないんだろう。

「会社から出るところです」
『じゃあ、あと三十分で来られるか』
「渋滞に巻き込まれなければね」

私はシートベルトをしながら答えた。

『軽だろ? 鮮やかなハンドルさばきで車列を縫って渋滞を突破しろよ』
「そういうハードボイルドなことはしません」
『俺に会いたいから飛んでくるとか言えばいいのに』

先生は笑みを含んだ声で言って電話を切った。先生はこういう言葉のやりとりも好きだ。担当になったばかりの頃は、先生の一言一言にドキドキしてしまったけれど、私は数ある出版社の一編集者に過ぎない。立場をわきまえなければ。

私はアクセルをグッと踏み込んだ。
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