嘘と本音*クリスマスに綴る物語
嘘と本音

ほんの僅かに視線をずらせば煌びやかな明かりが暗闇の中にいくつも浮かんで見えるというのに、美和子は俯いたままだ。

テーブルの上に置かれたグラスワインには一度も手を付けず、もう何度目か分からない溜め息をついた。



周りを見れば幸せそうに手を握り合う恋人達が、あたり前のように夜景を見つめながら微笑んでいる。

それとは対照的に、曇った表情の美和子。

一見すると、夜景が一望できる都内ホテルの専用ラウンジで、クリスマスに一人でいることの寂しさを感じているかのように思えるが、そうではない。


何故ならあと十分もすれば、美和子とクリスマスを過ごす為に彼氏である圭吾がここへやって来るからだ。



美和子がラウンジに来てから三十分が経過した頃、思い出したかのように目の前にあるグラスに手を伸ばした。

ワインは口に合わなかったのかと問いかけたくなるほど、それでも美和子の表情は先ほどと全く変わらない。

鬱陶しいと言わんばかりに眉を潜め、その長い黒髪を右耳に掛けると、再び溜め息をつく。

クリスマスに恋人を待つ女の顔にはとても見えないが、その理由は彼ではなく美和子自身にあった。



彼女はこの日、一年付き合った彼に別れを告げようと心に決めているからだ。







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