ネガティブ女子とヘタレ男子

下駄箱の男の子


下駄箱の彼に会ってから数日が経ったある日、千秋ちゃんから隣のクラスに呼び出された。

「…何か用?」

「ごめんね、さやたん。ちょ、ちょっと…見てほしい人が、いて…。」

女子の平均身長の私より更に低い千秋ちゃんは、顔を俯かせてもじもじと言った。いつもの様に結われたツインテールが、赤くなっている耳を少し隠す。

小さくしゃがんで覗き込めば「そ、そんな見ないでぇ…。」と頬を真っ赤に染めて微笑む彼女。恥ずかしさからか、袖で口元を隠していた。

(うん、今日も可愛い。)

千秋ちゃんの可愛さに改めて納得し、話を進めるべく彼女が言う方へ視線を移す。私達の登場に、何事かと集まり出す人混みを掻い潜って見えたそこに彼は居た。

「さ、爽ちゃんに千秋ちゃん!どうしたの?俺等のクラスに用事?」

「ち、千秋がね。隣のクラスどんななのかなって、気になっちゃって。さやたんはね、付いてきてくれたんだ。」

「そうだったんだ。」

「もう確認できたからクラス戻るね、騒がせてごめんね。」

「いいよいいよ、また来てね。」

知らない男子と普通に話せる千秋ちゃん。それに比べコミュ力の無い私はボーッと視線の先を見つめることしか出来なかった。

千秋ちゃんに引っ張られて、その場を立ち去る。小さい手に捕まれた、私の少し大きな手は、握り返して良いものか分からずにされるがままになっていた。

「ど、どうだった…?」

「どうって、何が?」

「ぁ、あのね…千秋ね。彼に、一目惚れ…しちゃったの。」

「彼って…さっき見て来た人?」

「ぅ、うん…。皆には、内緒。」

連れていかれたのは、何故か校舎裏の使われていない菜園がある場所。誰も来ないからと連れてこられた裏口へと続く三段しかない小さな階段。千秋ちゃんが石段の土を二人分払ってくれて、汚れない様にと私の分まで気を使ってくれたことに少し心が暖かくなった。

そして今の会話に戻るわけなのだが…。

恋愛相談の様な話の流れに、経験したことの無い私は、上手い言葉が一つも思い付かない。

(そう言えば、千秋ちゃんが言ってた彼って…。)

「あの、くるくる頭のぶ厚い眼鏡の身長高そうな人か。」

「み、見た目は大人しいけど…凄く優しい人なんだよ。この前の放課後、千秋の悪口を隣のクラスの女の子達に言われててね、教室の前通らなきゃ帰れないから、嫌だなぁって思ってたの。そしたら、その場に彼も居たみたいでね。『陰口しか叩けない様な奴より、その子の方が数倍も可愛いと思うけどな。』って言ってくれたの。少し開いた扉から覗き見ただけだけど、立ち上がって言ってくれたその人が彼だったんだ。その後すぐ友達と帰っちゃったから、お礼言えなかったんだけど…千秋ね、ソレだけで心奪われたの。優しいなって、思ってね。」

「ご馳走さまです。」

「も、もう!さやたんからかわないでっ。」

優しい人なんだよ。と言った千秋ちゃんの気持ちが、私にも共感できた。下駄箱で邪魔になっていた私に、「大丈夫。」と言ってくれた彼を、優しくないなんて言えるわけがない。

少しザワついた胸に気づかないフリをして、照れる彼女の頭を優しく撫でる。

「応援するよ。」

「ありがとう、さやたんっ。」

満開の笑顔返してくれた彼女は、やっぱり可愛かった。



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