魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時
魔法にかかる朝九時、魔法が解ける午後十二時


私は自他ともに認めるお人好しだ。お願いされると、どうしても首を縦に振ってしまう。そんな性質を利用されているとわかっていても、どうしても断ることができない。

そんな私の短所を、あの人は好きだと言ってくれた。この性格のせいで勤務の交代を頼まれて、断りきれなくて……デートをドタキャンしたことだって何度もある。

そんな私を、あの人はいつも笑って許してくれていた。優しくてかっこいい、私にはもったいないような素敵な人。

でもきっと、今回ばかりは呆れられてしまったに違いない。

電話で、今日会えなくなってしまったことを伝えたときの、彼の落胆した声を思い出す。彼のあんな声を聞いたのは初めてだった。

「どうしてもなんとかならない?」と言った彼の言葉に、私はなにも答えられなかった。

ここの老舗ホテルで働くことは、私の夢だった。幼い頃に宿泊して、スタッフの人たちに素敵なおもてなしを受けてお姫様気分を味わった私は、お姫様ではなくホテルで働く人……いわば従者に憧れた。

そんな夢を叶えて早六年。ホテルに泊まる人たちには、それぞれに様々な色の物語がある。そんな物語を彩るお手伝いができるこの仕事を、私は誇りに思っている。


だけど、今日ばかりは……大好きな仕事をしているのが辛い。

田崎要、二十七歳。大好きな彼氏に振られるかもしれません。

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