私のご主人様

独りになった瞬間、どっと疲労感が押し寄せてきてその場に倒れるようにして横になった。

今さらだけど、私バカなのかもしれない。

あんな、意味の分からない場所から来てすぐ動き回っちゃうんだもん。

…違う。本当は考えたくなかっただけだ。

自分が売られたこと。買われたこと。理解したくなかっただけだ。

「っ…」

お父さん、助けてよ…。探しに来て…。

逃げたい。帰りたい。こんなところにいたくない。

でも、逃げたらどうなるか分からない。

名前も捨てられて、訳の分からないまま働かさせるなんて、嫌だ。…嫌だよぅ…。

「…っう、ん…」

成夜、心配してるかな。一緒に高校、行きたかったな…。

泣きそうになっても、涙はこぼれ落ちない。

いつからだろう。1人でいるときすら泣けなくなったのは。

どんなに悲しくても辛くても涙は落ちない。どんなに泣きそうになっても、絶対に涙は落ちない。

だから、私が泣けるのは成夜がお昼寝の時だけ。

こんなときでさえこぼれない涙に、少し笑えて、目を閉じる。

あ、着物脱がなきゃ…。こんなとこで寝たら風邪引く…。

頭の隅ではそう思ってるのに、もう瞼は上がってくれなかった。
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