私のご主人様

…動く理由なんて、あるのかな。

どんなにここで働いても、一生ここから離れられないのに。どうせ、奴隷なのに。

いっそのこと、本当に奴隷にしてくれれば…。

…いや、逆に利用してやろう。信用させて、隙ができたら今度こそ失敗しない。

帰るんだ。お父さんのところに。そのために、あの人たちを信用させないといけない。

動くんだ。彼らに信用されるように。

そうと決まれば。すぐに着替え、部屋を出る。

まだ動き出していない屋敷は静かだ。足音をたてないように台所へ向かう。

すっかり片付いた台所には、基本的な調味料と、コーヒー、緑茶、紅茶が既に揃えられてる。

コーヒーはなんと豆。なんでも、季龍さんの指示らしい。コーヒー党?口に合うのが煎れられればいいけど…。

まぁとにかく、お湯を沸かしながらミルを出して、2杯分のコーヒー豆を出して挽き始める。

「♪」

鼻唄も歌えないけど、それくらい気分がよくなる。

奥様のわがままで振り回されていたときも、コーヒーを淹れるときだけは気持ちが落ち着いた。

持っていったら砂糖入れてないとキレられてかけられたことあったっけ…。あの時は流石に火傷して、旦那様が奥様に怒鳴っていた。

そんな日々さえ懐かしく感じてしまうのが何だか虚しかった。
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