聖なる夜の願い ~ホテル・ストーリー~

『なるべく早くこっちに来いよ。俺休み取ったからさ。頼みこんだ甲斐があって、同僚に譲ってもらえたんだ』今日は、一日、朝からずっと緒にいられるんじゃなかったの?

「そんなに仕事が大切なら、仕事と結婚しろって、もう。バカ……」

ホームをうろうろしても、これからどうするかなんていい考えが出てくるわけじゃない。
どうしよう。
無駄に早い時間に着いたから、お店だってどこも開いてない。
「とりあえず、ホテルに行こう」

駅どこだっけ。
まるで見当もつかない。いつも彼に任せっぱなしだし。
地図でホテルの場所を検索して、慣れない街を歩く。
誰よ。海がいいって言ってたの。
『六本木とか渋谷とか普段見慣れてる街じゃないとこがいいな。温泉とか』
『東京に温泉宿なんかないでしょ?』
『そうだな、じゃあ海がいいか。海なら東京にもあるぞ』
レインボーブリッジに観覧車。
彼の希望通り、海沿いのホテルにしたんだった。
フロントに荷物を預けて、朝、早すぎて人気のないお台場海浜公園に行ってみる。

入り江を囲むように遊歩道が整備されていて、公園になっている。
暖かければ、海で遊んだりできるんだろうけど。
朝早くに来る人がジョギングしたり、散歩したりしてる。
何でもいいけど、寒すぎる。

港を行きかう船、レインボーブリッジ越しに見える対岸の街並みを見ながら、自由の女神に挨拶し、商業施設をのぞいてみた。

「やっぱりここに来たのは、彼に会うためだ」
どこを回ったって、何を見たってひとりだなんて面白いわけない。
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