そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
毎日のように通るエントランスで、九条慎吾を待ち伏せすること十分。

その間知り合いに会っても、隠れたり適当に言い訳しながら過ごしていると、ようやくお目当ての人物がやってきた。


「慎吾さん、おつかれさまです~。
今おかえりなんですか?偶然ですね~。
私もなんです~」


身長もそこそこ高いし、よく見れば、顔もキュートな部類と言えないこともないけど、三分話すと残念ぶりが露呈すると言われている残念御曹司。

その仕事ぶりには似つかわしくなく、スーツと腕時計はいつも高級ブランド。

黙っていれば、いいんだけど。


彼によそゆきの笑顔でふんわり微笑み、小さく頭を下げる。


「ああ、おつかれさまです。
櫛田さん」


人の良さそうな笑顔でニコニコ笑う御曹司。

しかし、ここからもう気は抜けない。
勝負はすでに始まっている。


「真由です~」

「え?」

「ま・ゆ、です」


あくまで表面上は笑顔、だけど内側から押しの強さを醸し出し、笑顔をはりつけたまま、残念御曹司をじっと見つめる。


「......真由さん」


困惑していた様子だった御曹司だったけど、ついに根負けしたように苦笑いを見せた。





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