そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
この状況には、さすがの私も苦笑い。


「......怒ってる?」

「怒ってはいないけど、......焦ったよ。
もし、......真由も兄さんの方に走ったらどうしようかと思った」


さっきまでは堂々としてたのに、急にまた残念御曹司に舞い戻り、うろたえたように話す慎吾。

だけどなぜか、困ったような、焦ったような慎吾が、妙に愛しく感じる。


「不安にさせてごめんね。
でも、それは絶対ないよ。
私には慎吾だけ」


テーブルの上の慎吾の手にそっと手を重ねると、強く握り返された。


「キスしたい」
 
「......なにいってるの」


他にもいちゃついてる人たちもいるとはいえ、店の中だし、それに、キスの前にいちいち断りを入れてくるなんて、なんか嫌だ、と今までは思っていた。

しかし、そのムードもロマンチックさのかけらもない言葉に、年がいもなくときめいている自分がいることは、認めざるを得ない。


......どうしよう。


私、思ったよりも......

慎吾が好き、......かもしれない。
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