そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
貧乏は、愛さえも奪う。


腹黒、最低女、拝金主義と罵られようと、これが、二十七年間の人生の中で出した結論。

貧乏男と付き合っても、ろくなことがなかった。


貧乏イケメンに尽くすよりも、残念セレブに尽くされたい。

自転車に乗ったイケメンよりも、高級車に乗った残念セレブがいい。


「末恐ろしい幼稚園児だな」


げんなりとした様子でそう言った大輔に、私はよそゆきの笑顔でふんわりと笑う。


「私の本性誰かにバラしたら、......分かってるでしょうね?それなりに報復はさせてもらうわよ」


私の言う、それなりに、とは、人生潰すわよと、ほぼ同義だ。

女二十七才、もう失敗は許されない。


「はいはい、別に言わないよ。
言いふらしても、俺に何の得もないし。
まあ、がんばれよ」

「頭の良い男は好きよ。
お先に失礼します、澤谷さん」

「......おつかれさまです、櫛田さん」


ほとんど歩くようなペースになっていたランニングマシンを止めて、そこから下りると、大輔はマシンに乗ったまま、小さく頭を下げた。





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