極上な彼の一途な独占欲
09. もう嫌なんです
「冷静になりなさいよ。あんたはなにもおかしなこと言ってないわ」

「そうだけど、言い方とかあるでしょ。やっぱり正しくなかった…」


暢子の前では弱音も漏れる。

寝静まったホテルの、ロビーのソファに座って顔を覆った。


「安易に葵に謝ったりするんじゃないわよ」

「わかってる」


そんなことをしたら余計に彼女を混乱させるだけだ。叱責する側が堂々としていなければ、されたほうは怒りをぶつけられた理不尽さしか残らない。

嫌われるの怖さに慌てて謝るなんていうのは、許されない。


「私がフォローしとくから。あんたはまず自分を立て直しなさい。どうしたのよ、最近浮かれてたと思ったら、急にピリピリして」

「してる?」

「なんでもないようには見えないわね。顔もひどいし」


そんなにひどいのか。

寝不足によるクマも荒れも、ちゃんとメイクで隠したつもりだったんだけど。

暢子が私を覗き込むと、さらっとしたボブが揺れた。


「なにかあったの」

「…ヒロって覚えてる?」

「あんたの彼氏の? あのクズ男?」


やっぱり暢子の中でもそういう認識か。

ヒロに会ったのは、私が暢子の会社に誘われて、設立準備に追われている頃だ。暢子は有頂天の私も知っているし、どん底の私も見てきている。


「そう」

「そいつがどうしたの? まさかより戻しに来たとか?」

「ううん」


とんでもない、と私は慌てて手を振った。
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