極上な彼の一途な独占欲
12. あなたの腕の中
「泣きすぎだよ、日代ちゃん」

「美鈴さんに言われたくないです」


女の子たちのラストパフォーマンスを見にきてくれた日代ちゃんが、柔らかいティッシュの箱を差し出してくれた。

賢い。私も箱で持ってくるべきだった。ハンカチですら追いつかない。

東京オートショー最終日、閉場時刻が迫ってくると、次々に最後のパフォーマンスのシフトを終える子が出てくる。

誰もが三週間という長期の、しかも国内最大級のショーに携わるという仕事を終えるにあたり、ほっとして、さみしくて、自分をほめてあげたくて泣いてしまう。

感じやすい子はステージ上でもう涙ぐんでいたりして、それをこらえて笑顔を作っている様子にこちらもまたつられて泣く。


「すてきだったよ、頑張った」

「美鈴さん、ありがとうございました」

「次の仕事も頑張って。また一緒にやろうね」


ひとりひとり、大事に会話をして抱きしめる。

家族みたいな結束を見せ始めていたこのチームも、もう解散。今は感動で震えていても、明日になればまた、各々が別の仕事に出かけていく。

それがこの子たちのいる戦場だ。




「撤収!」


ドライだなあ。

最後の終礼が終わるなり、そう号令をかけた伊吹さんに感心した。てきぱきとブースの中を片づけ始めたスタッフの中には、目が赤い人も多い。


「伊吹さん、プレハブの件、どうにか収まりそうです」


中山さんがタブレットを手に、伊吹さんにいそいそと近寄るのが見えた。伊吹さんは気遣わしげに「いいのに」と顔を曇らせる。


「いえいえ、あれリースじゃなく、うちの子会社の所有物で。ちょうど新しいモデルに買い替えるところだったらしくてですね」

「見積もりに積んで構わないから、子会社をいじめないでやってくれ」

「人聞き悪いなー、そんなことしてませんよ!」


大仕事の終わりが見えたおかげか、中山さんもいつも以上に明るい。
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