極上な彼の一途な独占欲
13. 愛を語ってみようか
「カレンダーの撮影です。すぐそこのハウススタジオで。事務所をまたいでキャスティングしたいということで、お仕事をいただいて」

「カレンダーって、来年の?」

「いえ、再来年の」


伊吹さんがコーヒーに口をつけながら、目を丸くした。


「もう撮るのか」

「カレンダーの商戦は、夏前には始まるんですよ。その前にバイヤーに情報を渡しておかなかったら、どこの棚にも置いてもらえません」

「へえ」


私はアップルパイをお皿の上で切った。ガラスのテーブルと食器がぶつかり、カチンと音がする。

一日、伊吹さんの会社の近くで仕事することになったので、お昼を一緒にどうですかと呼び出してみたのだ。

伊吹さんもオフィスにいたようで、すぐに来てくれた。忙しいだろうし、喫茶店で軽く、くらいが限界かなと思っていたら、「大丈夫だ」と言ってくれたので、簡単なコースのあるレストランに来てみた。


「時間ってわりと自由なんですか?」

「いや、昼休みは決まってるけど、例えばランチミーティングとか、取引先と食事とか、そういう事情があれば別に、誰も気にしない」

「もっとお堅いのかと思ってました」

「うちは営業上がりが多いから、時間の使い方は個人の自由って考えが根付いてるんだよな」


なるほど。

ショーが終わった翌週。久しぶりに家で寝泊まりし、オフィスに通勤し、すぐ日常を取り戻したものの、どこかあの特別な三週間の名残が消えない。

それはこの目の前にいる、伊吹さんという最大の"名残"を手に入れてしまったせいもきっと大きい。

その伊吹さんが、「そろそろ行くか」と腕時計を見たので、私は伝票を取って席を立った。


「ごちそうさま」

「いえ、お忙しいのにありがとうございました」

「今週はそんな忙しくない。休みも取ってるし」
< 152 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop