極上な彼の一途な独占欲
中山さんが、照明や音響のスタッフのいるボックスへ早足で向かう。それを見送りながら、伊吹さんが口を開いた。


「笑顔」

「え?」

「礼儀正しさ、気持ちのこもった歓迎、節度ある接客、質の高いもてなし」


え、え?

いきなりなに?


「暇さえあれば展示車を磨き、資料に目を通しているまじめさ、向上心」


汚れひとつない、真っ白な床材を見下ろし、伊吹さんは続ける。

あ…。


「それらに感心し、コーディネートしたのは誰だと聞くだろう」


社長さんの話だ。

資料を持っていないほうの手を、スラックスのポケットに突っ込んで、ちょっと整いすぎじゃないですかと言いたくなる顔がこちらを振り向く。


「俺は、あんただと話すだろう」


口元には、嫌味でも冷たくもない笑み。

なにも言えなくなった私を見て満足したらしい。それ以上の説明をすることもなく、ステージのほうへ行ってしまった。


「お待たせ、準備できたわよ」


そこへ暢子が、モデルを連れて現れた。近づくなりぎょっとした声をあげる。


「美鈴、あんた熱でもあるんじゃないの、顔真っ赤よ」

「なんでもない、なんでもない、ちょっと寝不足なだけ」

「なんで寝不足で赤くなるのよ」

「ほっといて」
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