極上な彼の一途な独占欲
03. どこまで本気なの
「伊吹さんのお部屋、何階ですか?」


朝、会場へ行く途中、ホテルのエントランスで彼と一緒になった。単なる会話のバリエーションのひとつと思って聞いただけなのに、露骨に嫌そうな顔をされる。


「ストーキングにあいたくないから内緒だ」

「しませんよ!」

「冗談だ。18階」


ネクタイを直しながら平然と言う。私と歩いていても、歩調を緩めもしない。脚の長い彼にそうされると、私は小走りでないと並べない。

18階ということは、最上階のひとつ下だ。リッチ。さぞ眺めもいいことだろう。クライアントなんだから当然の部屋割りか。

そんなことを考えながら、徒歩7分ほどのショー会場へ入る。すでに顔なじみとなった守衛さんが、出展社パスを見せる前に通してくれた。


「あのホテル、朝食ビュッフェが洋食だけなんですね」

「不満か」

「続くと、ごはんと海苔とかが恋しくなりません?」

「俺はもう、前の晩にコンビニで買っておくことにしてる」


建物の中に入っても、自分たちのブースへは延々歩かないと着かない。客入れ前のがらんとした会場は、あちこちのブースで演出のチェックやリハーサルが行われている。

業界内、横のつながりもあるんだろう、他社のブースの人と時折手を挙げて挨拶を交わしながら、伊吹さんは奥へ奥へと展示会場を進んだ。

そうか、彼は設営から泊まり込んでいるので、もうすでに一週間近く同じホテルに滞在しているのだ。

"不満か"なんて偉そうに言っておいて、なんだ。自分だって不満だったってことじゃないか…。

朝にシャワーを浴びる習慣なんだろう、彼の後をついて歩く私のところに、石けんと香水のいい香りが降ってくる。不自由なホテル暮らしでも、シャツもスーツもピシッとしていて清潔。

あれ、この人、もしかしていい男なのでは。


「天羽」

「はいっ!」


素っ頓狂な声を出した私に、伊吹さんが訝しげな視線を投げてくる。わわ、またやった。
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