極上な彼の一途な独占欲
「え?」

「優しくすればいいのか」

「えっ?」

「それどう、気に入った?」


だしぬけに手元のグラスを指さされ、最初から気に入っていた私は、呆然としながらもこくこくとうなずいた。伊吹さんがにこりと微笑む。


「じゃあそれと似たのをグラスで持ってきてもらおう」

「あの、でもこれだと伊吹さんには甘すぎるって」

「今日は天羽の好みに合わせると決めた」

「やめて! なんか気持ち悪いです!」


速攻で音を上げた私に、「失礼な奴だな」といつも通りの冷たい一瞥が投げられる。それにほっとし、そんな自分が悲しくもあった。

また新しい煙草に火をつけて、伊吹さんがじろっとこちらをにらむ。けっこうなヘビースモーカーだ。


「気持ち悪いってなんだ」

「いいですよ、伊吹さんはいつもの通りで」

「人を優しくないみたいに言うな」

「どこをどう取っても優しくないですよ!」

「じゃあ悩み相談に乗ってやる。その手痛い恋愛とやらの話を聞かせろよ。優しく慰めて、お前は悪くないって言ってやるから」

「そんな居丈高な悩み相談とか、ないです」

「結局、優しくされる気がないんじゃないか」

「不自然すぎるんですよ!」


言い争っているうちに、ぐつぐつ言っていたアヒージョは食べごろの温度になっていた。サラダを取り分けようとしたら「そういうのは嫌いだ」と言われ、互いに自分のぶんは自分で取ることにした。

ワインリストの三番目と四番目をオーダーした。グラスで、ひとつずつ。

交換しながら、リストの一番下まで全部試して、結局私と伊吹さんの好みが完全に合うことはなかった。割高だとぼやきながら、後半は各自が好きなものをグラスで頼み続けることになった。


せっかくの美しい夜景を、ほとんど見ずに終わった。

伊吹さんの楽しげな、全開の笑い顔に、ずっと目を奪われていたから。


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