極上な彼の一途な独占欲
「二度と女の子に手を出さないで」

「わかった」


素直にうなずき、ごねもしない。

立っているだけで掃いて捨てるほど女の子が寄ってくるような男だ。ひとりひとりに未練なんてない。厄介と見たら遠ざかる。それだけ。

涙が出そうだ。


「じゃあ」

「あ、美鈴」


向こうがまだなにか話したそうだったのを、振り切ってちょうど来たエレベーターに飛び乗った。

扉が閉まるのを待ちきれず、閉ボタンを連打する。ヒロがこちらを見ているのがわかる。

ようやく箱が動き出したときには、気力が尽きて足元から崩れ落ちそうだった。

よりによって、どうして今。

どうして今、私の前に現れるの。


* * *


「天羽さん、おはよー」

「おはようございます…」


翌朝のブースは、どこか雰囲気がふわふわしていた。

なぜだろう、と首をひねりながら中山さんと挨拶を交わし、直後に気がついた。伊吹さんがいないせいだ。


「あの、伊吹さんは?」

「気づいちゃった?」

「いらしてないんですか?」

「さっき念のためと思って電話したら、その電話で起きたみたい」


言いながらププッと笑ってしまっている。そうだろうなあ、伊吹さんが寝坊なんて、珍事中の珍事だ。


「みんなには特に言ってないから、ここだけの話ね」

「はい」

「代わりのいないポジションで、ずっと気を張ってるんだもん。疲れが出て当然だよね。あ、すごい、もう来た」
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