不器用な彼氏
最終話 星降る夜と極上の朝
どこをどう走ってきたのか、気が付くと宿を出て、さっき花火をみた、海岸にたどり着いていた。
当然、財布も携帯も持たず、宿の名前の入った下駄で、ここまで来てしまった。

咄嗟の行動とはいえ、着の身着のままとは、こういうことなのかと、その時になって初めて気が付く。

時計もないので、はっきりした時刻はわからないけれど、先程、部屋に戻った時の時間で予測すると、午後11時を回っていることは間違いないだろう。

この時間になると、熱海サンビーチの砂浜を幻想的に演出していた、淡いブルーライトも点灯時刻が過ぎ、今は、ところどころに通常の外灯があるだけで、なんだか逆に、もの悲しい。

ちょうど、さっきまで出ていた月が雲に隠れ、月明かりがない分、夜空に散らばってる星たちが、今にも降って来そうな夜だった。

砂浜には、さっきの混雑が嘘のように、人影もまばらにしか見当たらず、波打ち際では、若い男女のグループが、周りのことなど気にもせずに、楽しそうに騒いでいた。

すぐに宿に帰ることも考えたけれど、戻って海成に、何をどう言ったらいいのか分からず、途方に暮れ、しばらく海岸沿いの歩道を、歩くことにする。

歩道と言っても、車道沿いのきちんと区切られた遊歩道のようなもので、ここを歩く分には、危険はないだろうと思われた。

途中、地元の方だろうか、犬の散歩をする人にすれ違ったけれど、いかにも観光地らしく、この時間に宿の浴衣を着ている自分をみても、なんら不審がらずに、素通りしていく。
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