不器用な彼氏
“ごめん、カイ君”

今すぐにでも会いにいって、謝りたい。そう思って、腰を上げかけた時、

『あ、そうだ』

ふと直さんが、真剣な顔つきで、後ろに座る、TM総括の葉山さんに向き直り

『葉山さん、広域の次、うち(TM)だけど、どうする?』

今までの会話を黙って聞いていた葉山さんは、すべてを理解している様子で、

『誰でもいいよ。東は?』

私の後ろに座る東君に、声をかける。

『俺ちょっと、緊張しちゃうとダメなんすよね~』

言いながら胸元をさすって、胃弱のアピール。相変わらず、即効逃げ腰の東君。
嫌な予感がした。東君が、断ったことは、必ずといっていいくらい…

『じゃ、櫻木』
『え?だって私、まだTM二年目ですよ?』
『TM一年やれば一人前!!』
『…直さん、一人前になるには、この前、最低3年って言ってましたよね?』
『細かいことは気にしない!ってことで、君に決定!よろしく!あ、古賀さん、TMの説明、櫻木に決まったから』

こういう時の直さんは、全く聞き耳をもたない。

振り向いて東君に助けを求めたが、話しかけるなオーラ全開で、完全無視される。その向こうにいるはずのTMの重鎮、白坂さんにいたっては、この話が出た時点で、いつの間にか席からいなくなっている。

目の前では、面倒な仕事が一つ片付いたとばかりに、鼻唄を歌うご機嫌の直さん。
“TMの鬼”と呼ばれた男が、今や単なるオジサンだ。

『…ハァ』

人知れず、小さなため息を吐く。

“あの子と二人っきり…?”

柔らかな髪をかきあげ、女子力全開の彼女。年齢も7~8歳年下だけれど、同じ女性としてわかる。

彼女も、きっとカイ君のこと、…好きなんだ。
そう思うと一気に気が重くなり、上げかけていた気持ちと共に、深く椅子に沈み込んだ。

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