塩顔男子とバツイチ女子



大学に行く時と同じように駅まで出て。そこからバスに乗った。大学となつみさんの勤務先は正反対だけど、そのどちらとも違う――行ったことのない方角のバスに乗った。

バスで40分、そこからは徒歩で20分と言っていた。

なつみさんはひっそりお正月を過ごさなければいけないらしい。みすみさんは旅行だし、なつみさんは仕事が忙しいから今年は帰ってこないという事にされるらしく、姿を見られるわけにはいかないという。

“ 迎えに行けなくてごめんね”

と、なつみさんは行った。電車やバスに乗るのは好きだし見た事のない景色を見ているとあっという間に時間が過ぎる。


駅前や繁華街を抜けて住宅街になって、そのうち畑や山が見えてきて。気がつけば乗客が半分くらい減っていて、降りるバス停の少し手前だった。

バスから降りると本当に田舎道で、目の前には畑が広がっている。なつみさんは何にも目印になる物がないと言って、行き方と一緒に所々目に付くポイントを写真に撮ってくれていた。
畑に立っている派手なカカシ、駄菓子屋さんとタバコ屋さん、スナックの前に置いてある大きな狸の置き物―――。


地図アプリで照らし合わせながら歩いていると、それらしき家を見つけた。ガレージになつみさんの車があるから間違いない。

よく映画とかドラマに出てきそうな、昔ながらの木造二階建ての広い庭がある大きな家。上手く言えないけど農家さん特有というか。
門を開けて中に入ると、市川という表札が出ていて、なつみさんの家――みすみさんの家だと確信した。元はその少し先にある畑をやっていたけれど、今はなつみさんの弟さんが使っているという。


インターホンを押してすぐ、パタパタと足音がして磨りガラスの引き戸越しになつみさんのシルエットが映った。

何だかちょっと緊張する。ここに来るまで何とも無かったのに。
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