鈴蘭の秘め事

階段を上り、最上階の端にある練習室へ向かって走った。

何故、この曲を知っているのか分からない。

けれど、俺は子どもの頃に歌ったきらきら星の曲があり得ないくらいに格好付けられたこの曲が、きらきら星変奏曲だということを知っている。

必死に荒ぶる息を押さえ込んで、ピアノ練習室のドアを叩いた。

「…はい」

中から女の声が聞こえた。

慎重に重いドアを押し開けると3メートル程先に真っ黒な長い髪を揺らした女の子がピアノと共にそこに居た。

青色のスリッパを見るところ、どうやら俺の一つ下の学年だった。

「えっと…生徒会長さん?」

澄んだ声が俺の耳にスッと入った。

「うん」

「どうして」

何故、俺がここに居るのかまったく理解できない様子の女は、オドオドとしながら徐々に近付く俺の様子を二重ではっきりとした大きな瞳で見つめていた。

足が一つ分ほどの距離まで近づいた俺は、椅子に座ったまま見上げる女を見つめた。

「君の名前は?」




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