その恋、逃亡中。
「それ、アリバイということ?」
「そんな大げさなものではないんだが、とにかく頼むよ」
彼は掌を眼の前に立てて、拝むような真似をした。
「勝手な人ね。一方では、別れる準備をしながら、利用できるところは、利用しようというの?」
「そういうわけではないけど……。その方が、くるみにも都合がいいはずなんだ。嘘は言わない。だから、僕の言う通りに……」
「………………」
くるみは溜息をついた。しかし、結局は彼の要求を聞いてしまうだろうという予感があった。
「いいよ」
と、思い切って言った。