副社長は甘くて強引
3.強引副社長の登場

 陽斗と別れたことを佐川に聞いてもらい、泣いたからだろうか。重く感じていた気分が少し軽くなったような気がする。

 今度は慰めてもらうのではなく、陽気なお酒を佐川と一緒に飲みたいな、と思った。

 翌日、気持ちも新たにショップに立った私は笑顔でお客様を迎える。しかし気持ちは入れ替えたものの、そんなときに限っていつもより客足はまばら。たいした売り上げも立てられないまま、時刻は午後五時を過ぎていた。

 閑散としたショップ内を見回しながらため息をつく。すると自動ドアが音を立てて開いた。

「いらっしゃいませ」

 ショーケースの中のジュエリーを覗き込みながら、ゆっくりと足を進める来店客の年齢は三十歳半ばといったところだろうか。ストレートの長い黒髪がとても綺麗で印象的だ。

「どういったものをお探しでしょうか」

 女性客に声をかける。しかし彼女の反応はよくない。

「……実は昨日、ほかのお店でこのネックレスを買ったの。だからお値段が気になっちゃって」

 女性客が自分の首もとで輝いているネックレスに触れる。Vネックニットの首もとを飾るのはダイヤのネックレス。ひと粒ダイヤが品よく光を放っている。

 なんだ、そういうことか……。

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