副社長は甘くて強引
陽斗と別れてから一ヶ月が経ったある日。
いつものように制服に着替えるとロッカールームを出る。すると販売部の上司である鈴木麻美子チーフと鉢合わせた。
「チーフ、おはようございます」
「おはよう。大橋(おおはし)さん、今日発送予定のダイレクトメールだけど用意できた?」
「あっ、まだです」
鈴木チーフの整った綺麗な眉が、ピクリと上がる。
「ちょっと、困るじゃない。今日はショップのほうには出なくていいから、ダイレクトメールの準備を優先させてちょうだい」
「はい。すみません」
販売スタッフには、一人ひとりにノルマが課せられている。お客様に送るダイレクトメールにひと言添えて来店を促し、販売に結びつけるのもノルマ達成につながる重要な仕事だ。
それなのに作業を忘れるなんて、私どうかしている……。
罰の悪さを隠すように鈴木チーフに頭を下げる。
「大橋さん、最近変よ。先月の販売成績、最下位だったじゃない。悩みでもあるの?」
落ち込んでいる私を鈴木チーフが気遣ってくれる。
自分でもおかしいことは自覚している。最近、気分が塞ぎ気味で仕事が楽しいと思えない。でも、そんな弱音を鈴木チーフに伝えたところで、ただの言い訳にしかならない。
「……いえ、大丈夫です。心配をおかけしてすみません」
「そう? じゃあ、とにかく早く作業を終わらせてね」
「はい」
謝ることしかできない自分が情けなくて、ギュッと唇を噛みしめた。