Winner
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
見たくないものを見てしまった。



その瞬間までの私は、幸せを噛みしめてロビーを闊歩していた。
これからは怯えることなく、生きていけるのだから。

そんな時、チェックインカウンターにいたのが『彼』だった。
そっと様子をうかがったら、近くのソファで3歳くらいの男の子を抱っこしている『彼女』の姿も見えた。やっぱり『彼』に間違いない。

『彼』にそっくりな子どもを抱っこした『彼女』を見て、心が震えた。
この呪縛から解き放たれるには、あとどのくらい時間が必要なのだろう。

『彼ら』がロビーからいなくなるのを待って、私は部屋のキーを受け取った。

部屋の窓からぼんやりと東京の夜景を眺めた。
数年前まで、毎日見ていた景色。

5年前、別れた『彼』。
5年前まで、親友だった『彼女』。
時を同じくして、私はありとあらゆるものを失った。


「おめでとう」なんて、とても言えなかった。
私達のことを知っている友達もみんな「心が狭い」なんていう言葉は、心の奥底で思っていたとしても、口には出さないでくれた。
むしろ、非難を浴びた『彼ら』が気の毒だとさえ感じた。
私がそんな風に同情していたと知ったら、『彼ら』はどう思うだろう。

部屋で沈んでいても仕方がない。今夜は贅沢をすると決めていたのだから。
でも、『彼ら』には会いたくなかった。まだ気づかれてはいないが、向こうだって私には会いたくないだろう。そうなると、行く先は限られている。
小さい子どもを連れて入りにくいであろうお店となると、このホテルでは……。
< 1 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop