白い狐は出会いの季節
慣れない空気に目を逸らした。
目線の逃げ場は隣の席だった。


この教室では、いかにも、真面目そうなオーラを出している男子生徒。
制服も乱れているところもなく、髪の毛も黒のような茶色のような、普通の生徒だ。


「よろしくお願いします」
彼は口パクでそう言った。


いきなりのまともな挨拶に、焦りながらも軽く頭を下げて礼を返す。


……。いわゆる草食系男子、という奴なんだろうか。
カーディガンを中に着ているのが分かる。
そして袖を伸ばして萌え袖にしているのも…。


「じゃあ出席とるぞ〜。」


城内先生のやる気のない声が響いた。
男子生徒を見つめてばかりじゃいけないかな、そう考え、大人しく前を向くことにした。






「……。以上だ。一時限目から遅れないように。」


城内先生の言葉、そしてすぐにチャイムが鳴る。それを合図に一気に生徒が動く。


いろんな生徒がいた。


窓から身を乗り出して携帯をいじる生徒、机に伏せて寝ている生徒、黒板に落書きをする生徒、何故か殴り合いを始める生徒。


……。あぁ、城内先生の言っていた意味がわかった気がする。


「気をつけろ」。確かに気をつけるしかない。


きっと不良って呼ばれる人もいるんだ。
……あまり目立たないようにしよう。
…………善処しよう。
心に一人決意して、次の授業の準備をする。


「……あ。」


少し掠れた声がした。
……気のせい?


「……あ、あの。」


顔を上げた。弱々しい表情の男子生徒がいた。
……隣の席の!
どうやら私に話し掛けて来たらしい。


「桜井、花楓さん。ですよね?」


「うん、まぁ。」


見た目で草食系男子の判断したのは正しかったらしい。
えと、あの。いろいろな言葉を挟みながら話した。


「あの、桜井さん。授業の準備をしてもあまり意味無いと思います…。」


「……。え?」


「意味無い」?
私はそのまま聞き返した。


「意味がないってどういうこと?……えーっと。」


私が言葉につまると男子生徒は、はっとして。


「あぁ、自己紹介が遅れました。僕の名前は日向真唯です。ひなた、まい、と読みます。」


「よろしくお願いします」
今度はしっかりと言葉にしていた。


「……えと。この学校って見た目で分かる通り凄く乱れてますよね。いろんな意味で。」


うん。私は頷く。
この教室に入ってから1時間もしないで理解したことだ。
この学校はおかしい。
いや、生徒がおかしいのか?


「授業って言っても、先生方は生徒の教育をほとんど諦めていますし、勉強を真面目にする人もいません。」


真唯が淡々と続けた。
この学校ではそれが常識なのか?
表情の一つも変えないで語っていた。
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