ROOM 2005
2.


***


胸元にホテル関係者を示す名札が無いと気付いたのは、勤務を終えて更衣室で着替えをしている時だった。


ポケットやメイキング道具の荷台にも見当たらず、落とし物の知らせもない。


きっとあの時――…


湊先輩を突き飛ばした時に落としたんだ。


慌てていたから無くした事にも気付かなかった。あれが無いと困る。


光希は日か落ちて、ホテルが少し落ち着く時間帯を待った。


彼の部屋の前に立つと心臓がうるさく脈打つのを感じる。

すうっと息を吸って、吐くと同時にコンコンとノックした。


中から「はい」と湊先輩の声がする。


「光希です。ちょっとお尋ねしたい事があって……」


声を掛けると客室のドアはすぐに開いた。


「来ると思った。どうぞ」


湊先輩はドアを大きく開いて光希を招き入れる。


< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop