校庭に置いてきたポニーテールの頃
焦る私に構わずに彼は続けた。

「まじごめん、困らせるつもりはなかったんだ。

俺、宮西の笑ってる顔が……えっと、いいと思っているからさ。

何も言わなくていいから、とりあえず笑っててくれない?」


私は両手でごしごしと涙の痕を拭いて、ぺしっと両頬を叩いた。

彼がこう言っている以上は、もう涙を見せてはならないと思ったのだ。


精一杯笑顔を作るも、さっきまで強張っていた頬のせいでぎこちなく映ったのだと思う。


「すげー顔だぞ、おまえ」


彼もふっと笑顔を見せてくれた。


「じゃあ俺行くね。ほんと、今の気にしないでいいからさ。

……また、明日な」


「……うん、また明日ね」


久々に声を出したせいで言葉がかすれてしまった。

明日という単語が重たく感じ、胸がぎゅうっと締め付けられる。


走る彼の後ろ姿を見ながら、せめてここで『ありがとう』の言葉だけでも言えたのならよかったのにと後悔した。

彼の気持ちに応えなかった私は、結果的に彼を傷つけてしまったことになったのかな。


そして卒業式では一言も話すことのないまま、私は彼と会うことはなくなった。

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