俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集

杏は仕事が出来る。
頼まれ事が多いのも、その合間に雑務をこなすのも俺の教育係りのときからの日常だった。

だけど、最近特に多くなった気がする。
ちょっとした資料の場所やパソコンのデーターファイルの場所。コーヒーの入れ方や荷物持ち、あれもこれもと杏に聞きやがる。

お前ら杏と話したいだけだろ!
それくらい自分で調べろよ!
探せよ!
飲み物くらい自分で入れやがれ!

デスクにいると否応なしに視界に入る杏と男の姿。
いっそ部屋に閉じ込めて、
誰の目にも触れされたくない。
声すらも聞かせたくない。

このまま俺の部屋から出なきゃいいのに。
週末毎に、そんな狂愛じみた感情を腹ん中に閉じ込めて杏に気づかれないように、せめてと腕の中に抱き寄せている。

はぁ。可愛すぎる。
俺、重症だわ。


そんな思いも虚しく杏は今日も元気に仕事に向かう。
月曜日なんて嫌いだ。


【笠原杏は小早川恭一の彼女】
こういう定義が固まったはずだ。
わかってるだろ、俺のなんだよ。


なのに杏は俺が隣に居るにも関わらず、チラチラと視線を集めている。
本人は全く気づかないが。
でも、悶々と苛立つ俺の変化には敏感で。

「あの、どうかしました?眉間に皺、よってますよ?」


俺の眉間に手を伸ばし皺のよっている真ん中をツンと撫でにくる。
その可愛い動作に気持ちも一気に浮上して、抱き締めたくなる気持ちを必死に押さえつける。
ぎこちなく苦笑しながら
「なんでもないよ」
と杏に笑みを向けると、彼女もふわりと笑った。

「そうですか?良かった」


その愛らしい微笑みに周りから息を飲む音が聞こえる。
すると上がった気持ちも再び一気に下降してしまう。
周りの奴等に「見んじゃねぇ!」と叫んでしまいたい。

エレベーターという狭い箱の中で見られる朝の風景だ。


俺の、だって名札付けてくんねぇかな。
そんなしょうもない事を真剣に考える。
あっ、襷のがいいな。


でも、見られることには変わらない。

━━━━━━こけしに戻んねぇかな。
マジで。
杏の可愛い姿は俺が知ってるだけでいいのに。

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