キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
ピィ~ピピィ~ピィ~

ピッ‼

園バスのバックに合わせて鳴る先生たちの笛の音。

ピィ~ッ!

笛の合図にきっちり止まって、駐車場に並ぶバスたち。

いつ見てもスゴいなぁ~。

バスの後ろに目が付いてるみたい‼


「行ってらっしゃい。」

「楽しんでおいで」

優しい言葉掛けに

「いってきま~す。」と子供たちの元気な返事が返ってくる。



今日は大型バスの当番。


今学期、このバスに私が乗る最後の日。

一学期も残すところ10日になって…

ようやく少し、仕事に慣れたかな?って感じ始めてる。

バスの失敗もしなくなったしね!


ただ、やっぱり慣れないのが…森先生。


一度は遠足でいろんな面に触れて、優しい先生に心が開きかけたんだけど…

"気になる人"発言で、また苦手になっちゃた。

ここ二週間、まともに話してないの。



気になってつい目は行くのに、目が合いそうになるとスッと反らしてしまう。

感じ悪いだろうなぁって思うと…よけい緊張しちゃって。



今日こそは苦手なんて考えずに

一学期に沢山かけた迷惑のお詫びと

助けてもらったお礼を言いたい‼



そう決心して、今日の当番を向かえたのに…


一回目のバスは、上手くいかず…

お礼どころか、一言も声を出せずに終わったの。


次がラストチャンス‼


これを逃すと夏休みがきてしまう。

何とか‼

って思うのに…現実は中々上手くいかず…。


次の角を曲がったら!

あそこの踏み切りを越えたら‼

信号が赤で止まったら‼と

時間だけが過ぎてしまい、そんな自分にイライラしてしまう。

そんな時、助けてくれたのは…やっぱり先生で

「ねぇ~先生。ボーナス、何に使うか決めた?」って。

「えっ?あ~…。まだ…です…。」

突然の会話に戸惑っていたら

「だったら、少しでいいからご両親に贈り物をしたらいいよ。
きっと、スゴく喜んでもらえるから!」

「あっ、そうですね。…はい、そうします。」

お詫びとお礼のことばかりが頭を占めていて、あやふやな答え方しか

出来なかったけど…

いつも緊張して会話がないからあまり気にならなかったのか

まだ会話は続いて…

「先生。もちろん、自分にもご褒美をあげるんだよ。
先生は人一倍頑張ったんだから、自分で誉めてあげないとね。」って。


頑張ったよって…言って下さるんですか?

あんなに迷惑ばかりかけた唯なのに⁉


この4ヶ月…。

怒らせてイライラしてる先生のうしろ姿ばかりを見てきた。

怖さももちろんあるけど…

今は申し訳ない思いが大きくてホントに辛かったの。

"頑張った"は、先生の優しさだけど

それでも…やっぱりうれしい‼


「あの…。
先生。…一学期は、本当に沢山のご迷惑をおかけして…申し訳有りませんでした。
途中で辞めることなく、何とか過ごせたのは…先生のお陰です。
本当にありがとうございました。」

何とかお礼が言えてほっとしていたら

「ええっ!
先生、辞めようって考えてた?
もしかして、俺が怖いから⁉
…ごめん。
でもね、2・3か月で辞めるのは、もったいないよ。せっかく夢が叶ったんでしょう?
先生は、人よりのんびりしてるから時間がかかるだろうけど…
人の気持ちは人一倍分かる子だから
きっと良い先生になれるよ。」

人の気持ちがよく分かる⁉

うーん。

一番苦手なはずなのに…

でも、一学期のラストに思いもかけないうれしい言葉をもらっちゃった‼
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