パノラマ・ビュー ~夜景の広がる部屋で~
あれはまだ夏の終わりだった。

珍しく佐野が上司に怒鳴られたことがあった。
新しく任された企画の見込みが甘いって突っ込まれ、途中まで進んでいた商品の購入を断念することになったんだ。

『課長の言うことのほうが全然正しかったんだよね~』

その日たまたま二人で残業していると、並びのデスクで佐野は大きな溜息をついたっけ。

『わたし全然成長してないや。これでもハワイも行かないで頑張ってんだけどなぁ…』
なんてあいつは小さく呻いた。

『ハワイ?』

『うん。年末年始の旅行。今年はハワイだって、今みんな盛りあがってんの。そろそろ申し込んで抑えとくらしいよ』

みんなっていうのは同期の女子たち。
正月休みは毎年ハワイや韓国へ、自分ご褒美旅行を恒例にしている。

『今年も断ったのか?』
『うん。仕事気になるし』

入社一年目、初めての正月休みは、佐野だってみんなと一緒にハワイツアーを予約していたんだ。
それが仕事のトラブルで、あえなくドタキャン。
以来佐野は同期との正月旅行には参加しなくなった。

うちの課が担当している商材は、最終ユーザーが小売販売店で、年末セールや初売りの商品の納期が遅れるとヤバいんだ。

ぎりぎりの発注もあるし、なんせメーカーも流通も世界規模でバタバタしている時期だからな、何かとトラブったりするわけ。

だからあいつは毎年大事を取って旅行を諦め、何があっても動ける体制でいる。

文句も言わず音もあげず、一人でキリッとそう決めている佐野が、オレは何だかいじらしかった。

『行けよ、ハワイ』

『でも…』

『仕事のほうは何かあったらオレが二人分動くから。オレだって入社当初とは違うんだ。お前の分ぐらい背負ってやれる』

オレがそう言うと、佐野の目の中がるるるっと揺れた。
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