君のまなざし
オープンから2週間程たった頃、
山田がある日を境に元気をなくし、憔悴した姿になった。クチ数は減り、目の下にクマ、うつむいてパソコンに向かいため息をつく。
その三日後にはうっすらと無精ひげ、頭には寝ぐせ。
誰でもあいつのまわりの黒いオーラが見えそうな程だった。

「そういえば、俺が早番で帰った翌日から急に復活してたよな。彼女とヨリが戻ったとか?」

忙しくて聞くタイミングがなかったんだ。

本社から急な呼び出しがあり、閉店作業がある遅番を山田に頼んで帰ったんだが、あんな状態で任せて大丈夫だったかと心配していた。
でも、翌日出勤してきた山田はいつもの元気な明るい山田だったのだ。

無精ひげも目の下のクマもなくなり、表情も明るくなっていた。

たった一晩での変化に驚いた。

「ヨリは戻してないよ。あれからさ、俺をどん底からすくい上げてくれた女神が来たんだよ」
と笑顔になる。

「はぁー?女神だ?」
「次の彼女ができたとか?」
「お前の口から女神とか気持ち悪いし」

俺たちの反応にはめげる気配もない。
山田はにこやかに繰り返す。
「だから、女神に救われたんだって」

「寝ぼけてんのか?」
「夢だろ、何か良い夢見たんだな」
「女神なんて実在しませんよ」

「いや、女神はいるんだよ。身近なところにさ」
まだ言うか。

「どこにいるんだよ?」
「いるなら会いたいです」

「木曜の夜、うちの店に」

うちの店に女神?
どういう事だ?
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