君のまなざし
「祐也くん。それって例えば僕がお母さんを個人的に誘ってもいいってこと?」
と頬を引きつらせつつ笑顔になるよう気をつけながら言うが、笑えていたかな…。

「そうですよ。僕は相手が山口さんなら問題ないです。あ、でも奥さんか彼女さんがいるんでしたっけ?じゃ、ダメですね」
またあの絵里子さんそっくりな顔で俺の瞳をのぞくようにじっと見てきた。

何を考えているのかわからない。
もしかしたら、何め考えてないのかもしれない。まだ中学生だし。それともからかわれている?どうしたら?
とフル回転で考える。

俺の返事より前に祐也が話し出した。

「えーっと、多分、僕のいないところで母は結構男から声をかけられたりしてると思うんですよね。もう若くないのに。僕を利用して母に近付こうとする人もいるし。だから、母が悪い男に引っかかるのは嫌だなーって。」

でも、これから先息子の世話だけして暮らしていかれるのも申し訳なく感じると言うのだ。

「僕はいいの?」
「はい、彼女さんがいなければですけど。あ、あと、柴田さんも鈴木さんも」
ニヤリと笑う。

許可をもらって嬉しいけど、柴田や鈴木の名前も出てきて何だか微妙な気分になる。

でも、本来の大人の男として自分を立て直す。

「ありがとう。俺は独身だし、今彼女もいないんだ。じゃ、本当にお母さんを食事とか誘ってもいいんだね」
と笑って宣言するように言うと、祐也も
「どうぞ、誘ってやって下さい」
と笑った。

いや、これって本当に誘ってもいいのかな?
でも、祐也の言う『僕を利用して…』ってどういうことだ。

「お母さん綺麗だしもてそうだもんな。実際そうなんだ?」

「うーん」
顔をしかめて少し口ごもる。

「良くも悪くもいろんな大人が周りにいて。その中には僕を口実に母に近づこうとする人がいるってだけですよ。まぁ、そんなヤツらは追い払うだけですけど」
ハハッと爽やかに笑うが、話の内容は爽やかじゃない。

この中学生男子あなどれないかも。
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