聖夜にセレナーデ


何回も続くアンコールに笑いながら答える彼。

ショパン以外の作曲家の曲もまた輝きを持っていた。

そんな彼の演奏を私の中の私が遠くから聴いている。

はっきりしていない意識。

彼が再び客席に向かって礼をしたのが分かる。

鳴り止まない拍手に、今度はマイクを持つ彼。

「本日は、私、林道 春妃のコンサートにお越し下さり、ありがとうございます。皆様と音楽を共有できた事、大変感激しております。」

彼がそこまでしゃべった時、また拍手が起こる。

鳴り止むまでの間、ジッと客席を見渡すような素振りを見せた彼。

ふいにその彼の目が私に向いた気がした。

「次の曲ですが、私自身が作曲した曲を弾かせて頂こうかと思います。最後の曲となりますが、お楽しみ下さい。皆様の元に幸せが訪れますように、メリークリスマス。」

聴こえてきたのは温かい和音に美しい旋律。

穏やかな曲調。

それまで荒れ果てていた心が静まってゆく。

暖かく包み込まれ、解される。

なんだかこの感覚懐かしい。

昔、よく彼が抱き寄せてくれた時の感覚に近いけれど、もっと暖かくて心地よい。

再び流れ出す涙。

でも、さっきの涙とはどこかちがう。

この音楽を聴いたら、それだけで糧にして生きていけるかもしれない。

不思議とそう思えた。

つかの間の音楽だったけれど、パワーを貰えた。

私、もう少しだけ頑張れるよね。

< 7 / 16 >

この作品をシェア

pagetop