男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

あの日から、大公殿下をお見かけしていない。

広い屋敷なので、顔を合わせずとも不思議はないのだが、嫌われてしまったと落ち込む心では、避けられているように感じていた。

私らしくない溜息を天井に向けて吐き出すと、ジャコブは机上を整理していた手を止めて、「今日の晩餐のデザートは、アップルパイですよ」と教えてくれた。


アップルパイは少し……いや、かなり好きだけど、食べ物でこの心の痛みが治るほど、私は単純じゃないんだけど。

そう思っても、私を心配して元気づけようとしてくれるジャコブの気持ちを考えて、「アップルパイか〜。とっても楽しみ!」と笑って見せた。


そのとき、ドアが三度ノックされた。

城に来て八日が経つが、この部屋を訪れる人物はジャコブだけだった。

誰がドアを叩くのか見当もつかずに首を傾げる私と、応対に出るジャコブ。

ドアを開けたジャコブは、廊下に一歩出て来訪者と話をしていた。


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