all mine
彼とは実家が近所で親同士も仲が良い、俗に言う幼なじみってやつだ。同い年ゆえにお互いの歴史をイロイロと知り尽くしていて颯哉と顔を合わせるとどうしても、家族的な親しさと煙たさが同居してしまう。

「まぁ、ここの肉はうまいけどな」

肉好きのグルメ野郎は牛肉をみて笑った。今日初めてみせた彼の笑みが『牛肉』に対してというのも、なんともわびしい話だけれど楽しい気分じゃないのは仕方がない。

鉄板のうえのステーキ肉は香ばしい音色を響かせてる。その肉を黙々と焼いてくれるシェフの肩越しには、ベイエリアの灯りが一望できた。

もしもこれがデートだったなら、このきらきらの灯りがロマンティックな雰囲気を盛り上げる演出になるのだろう。

隣の颯哉を横目で盗み見て、小さなため息を飲み込む。

颯哉が相手とはいえ、急きょご飯に誘ったあげく、隣にいるのが恋人ではないと、ため息をつくわけにはいかない。颯哉が、颯哉と似た容姿を持つあの人を思い起こさせるとしても。

ただ、さすがに颯哉とでは向かい合ってフレンチを、なんて気分になれるわけもなく、泣く泣くキャンセルして同じ複合施設内の最上階にある鉄板焼の店を選んだのだ。

「……ほら。飲むなら肉も食え、肉も」

空っ腹に飲むお酒は回るのがはやいとわかっていても、私の手はすぐにグラスを持ち上げたくなる。そんな私を見越して、颯哉は美味しそうに焼かれた肉を勧めてくる。
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