『コーン』な上司と恋なんて
こんな一面があるなんて、職場では気づきもしなかった。


「……わかったよ」


呆れ返りながらも答えると、やっと満足した様に歩き出す。

さっきまでの小走りではなく、えらくのんびりと遅い歩調で。



「…疲れたのか?」


結構なスピードだったからな…と思いつつ聞くと、振り向いた芦原の顔が照れくさそうに笑った。


「お腹が空き過ぎて歩く気力も無いだけです」


「それなのにあんな小走りをして逃げたのか?」


「だって、先輩達に見つかると怖いし」


部署の中にやたらとアッタクしてくる女が数人いる。
俺の好みでもないから適当に嘘を言って断っているがーー。




「ブハッ!」


笑ってはマズイと思うが可笑しくて吹き出した。
いろんな意味でツボにハマる女性だ。


苦笑する俺を恨めしそうに見つめ、ムッとしたように唇を突き出す芦原。
その顔が可愛いもんだから余計に楽しい気分になってくる。


「空腹なら何か食べに行こう。今日は君の選択に任せるよ」


そう言うとぱぁ…と顔を輝かせた。

「この近くに美味しい店があるんです!」とハリキリだし、「急ぎましょう!」と足を運ぶ。


現金なもんだと思いながら付いて行くと、レンガ造りの洋食屋風な感じの店の前で立ち止まった。



「ここの和定食が人気なんです。…入りますよ」


てっきりオムライスやビーフシチューを食べるのかと思いきや、和定食ときた。


< 73 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop