『コーン』な上司と恋なんて
「今日は疲れてしまって。早く部屋に帰って休みたいんです」


さっきまでは誘われたら自分がお金を出そうと決めてた。

金澤さんの所でどんなやり取りをしたかを聞いて、「お疲れ様でした」と声をかけてから…と思ってた。


(断りたくなんかないよ。私だって課長と一緒に飲みたいのは山々なんだから)


でも、どうしても許せない。

ハッキリしない課長の態度が嫌。



「……フラれたか」


課長の言葉にハッと目を向けた。
残念そうに息を吐いてる姿を見つける。


「そうだよな。芦原さんにも彼氏がいるだろうし」


どうしてそうなる。
私は一言だっているなんて言ってない。


「いません!」と宣言してやろうかと口を開いた。
でも、それを公言したところで、私が課長の何になれる?


(何にもなれないのに言う?同情されるのがオチじゃない)


そう思ったら言う気も失せてしまった。
黙ってたら認めることになってしまうんだろうか。


何も話さないでいる私を見て、課長は「それじゃあな」と囁いた。

ビクッとして見上げたら、少し悲しそうな目をしていて。


「気をつけて帰れよ。呼び止めて悪かった…」


コートのポケットに手を突っ込んで踵を返して歩きだした。

その背中を見ながらぎゅっと唇を噛み締める。



私が望んでた夜は、こんな筈じゃなかった。


なのに、どうしてそんなにアッサリと諦めるの……。


< 97 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop