甘い天秤
「私の父は会社を経営しています」

「えっ?……もしかして、長谷川建設?」

「そうです」


社会人になってから初めてだ。自分で会社の事を話したのは。


伊織さんも驚いているのがわかる。私たちが勤めている会社も取引があるし、そうじゃなくても日本にいれば一度は社名を聞いた事があるだろう。それだけ大きな会社なのだ。


伊織さんはどう思うだろう。これで離れていっても仕方ない。父は会社経営者で私はその娘、その事には変わりはないから。


でも、思いもしない言葉が返ってきた。


「そうなんだ。それを聞いて、謎がとけた」

「え?謎?」

「そう、謎。凛ってさ、育ちの良さがでてるし、行動にも言動にも」


「そうですか?」

「うん。どこかのお嬢様なのかなって思ってた。まさに大和撫子って感じだよね。そういうとこ好きだな」

「え……?」

「いや……。ほら、海、見えてきたよ」


そう言われて窓の外に目をむける。青い空から日差しが降り注いでキラキラ光る海が見えた。


「わぁー!キレイ!!」

「車停めて少し歩こうか」

「はい!」
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