甘い天秤
しばらくお互い無言で、車は進んでいく。時刻は午後4時。


「まだ一緒にいたいけど、今日は送るね。このまま一緒にいると、何かしちゃいそうだから」

「えっ?……はい」

「嫌われたくないし、大事にしたいから。……凛がちゃんと俺だけの人になってからね」


その返事は出来なかった。自分の気持ちも分かってないのに、安易に「はい」とは言えなかった。


それからどうやって伊織さんとわかれて、部屋に帰ってきたかは分からない。気づいた時には、なんだかふわふわした気持ちでソファーに座っていた。


しばらくそのまま動けずにいる私の耳に、メールの着信音が聞こえた。


はっとして、自分の隣に置いていたバックから携帯を取りだし、確認する。


『家に着いたよ。今日はありがとう。混乱させちゃってごめん。俺は待ってるから、凛の納得する答えを出して。でも、たまには一緒に食事でも行こう。またね』


『はい。私もごめんなさい。少し時間をください。では、また』


伊織さんのメールにはこんな返事しか出来なかった。

未だ、ふわふわした気分でいつか自分は、答えを出せるのか……ぐるぐると考えてその日はあまり眠れなかった。

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