幸福に触れたがる手(短編集)
シンコペーション

【シンコペーション】




 付き合い始めて初めてのクリスマスも、大晦日も、お正月すら会うことができず、せっかく誘ってもらっても仕事や先約があったり、意を決して誘ってみても今度はあちらに仕事や先約があって……。
 気付けばもう年をまたいで、二ヶ月会っていなかった。

 そんな話を学生時代の友人茉莉ちゃんにしたら、恋人の啓二くんと、買い物袋と大きな荷物を抱えて遊びに来てくれた。
 荷物の中身は雑貨や本や服。「千穂こういうの好きでしょ、あげるよ、使ってー」と言って茉莉ちゃんは平和に笑う、けど……。

「茉莉ちゃん、啓二くん。うちはリサイクルショップじゃないよ?」

 つい先週から同棲を始めたらしいふたりの荷物を、体よく押しつけられただけかもしれない。

「まあまあ。どれもまだ使えるし、捨てたりずっとしまっておくより良いじゃない」

 確かにそうかもしれない。食器も雑貨も新しいし、服はわたしの趣味に合わせてチョイスしてくれたようだし。有り難く使わせてもらおう。


「それにしても、クリスマスも大晦日も正月も会えないなんて。そんなに生活サイクルが違う相手と付き合ってんの?」啓二くんが呆れた声で言った。

「まあ生活サイクルは違うんだけどね」

「そんな人とどこで知り合ったの?」茉莉ちゃんは荷物の中から取り出したティーバッグセットを早速使うようで、キッチンに移動しながら問う。

「共通の友だちがいて」

「おお。よくあるやつだ」

「茉莉ちゃんと啓二くんだって、共通の友だちの紹介で知り合ったでしょうが」

「そうそう。だからよくあるやつだって」

 そのあとも茉莉ちゃんと啓二くんからの質問は続いて、年齢や身長や職業、芸能人に例えると誰に似ているか、を聞かれたけれど、彼――柳瀬さんが役者をしていることは話さなかった。
 長い付き合いの友人たち相手に曖昧なことを言うのは気が引けるけれど、前に会社でいとこの春くんが役者をしていることがばれて、ちょっとした騒ぎになったことがあった。だから申し訳ないけれど、もうしばらくは隠しておきたかった。


 ふたりはわたしの曖昧な返答に、顔を見合わせ苦笑する。

「でも生活サイクルが違うと、何ヶ月も会えないんだねえ」

「普通なら愛想つかして別れるパターンだよなあ。もしくは人肌恋しくて近場の相手で浮気するか」

「こら、啓二!」

 啓二くんの発言に、茉莉ちゃんが慌てて彼の口を押さえる。けど、はっきり聞こえた。浮気、と。

 柳瀬さんを疑うわけではないけれど、浮気されていたらどうしよう……。役者さんだし、周りに綺麗な女優さんも大勢いるだろうし……。

 思い返せば最近少し素っ気なかった。クリスマス近辺は元々仕事が立て込んでいるからと言われていたし、大晦日に「年越しそば食べに来ませんか」と電話したときも「無理。別の集まりに呼ばれてるから」とやけに不機嫌な声色で言われてしまったし……。


 すっかり重くなってしまった空気を変えるよう、茉莉ちゃんが傍らに置いていた買い物袋を持ち上げ、明るい声を出した。

「餃子作ろう!」





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