ビルに願いを。

「丈さんは勝手にコードを直してもいいものなんですか」

近くの席を通りがかったから、仲良くなった全員外国人のチームに顔を出して聞いてみる。

「もとになってるのはジョーのコードだからね。彼が直しておかしくなることは絶対にない。本当はコメントもらって自分で直したほうが理解できるけれどね」

「ジョーのコードは本当に美しい。これ見て、アン。これが修正前でこっちが修正後。全体的に無駄なく短くなっているし、ライブラリをうまく使ってるし、本当にきれいだよね」

「顔もきれいだけどね。あれで笑ってくれればすっごい好みなんだけど!」

「残念だけど君に勝ち目はないよ。ジョーはアンに一目ぼれなんだから」

経緯がこの人たちにはうまく伝わってないらしい。

ケイティに似ているから置物になってるだけなのですよ。




それにしてもここのチームはすごくノリがいい。4人集まってわいわいと話しあいながらプロジェクトを進めている。

丈さんにもこんな風にやってほしいんだろうなぁ、社長は。想像できないな。一日ほぼずっと無言だよ、あの人。



丈さんともコミュニケーションを取ろうと努力はしてみた。後ろから覗いて何をしているところか聞いてみたり、お昼に下のコンビニに行くから欲しいものがないか聞いてみたり。

「いらない」

たった一言。毎回、安定のそっけなさであしらわれる。

最初の日に抱き寄せられたり逆ににらまれたり、ああいう感情をあらわにする場面を見ない。

生気がない。麻里子さんはそう言ってた。

私がいてもいなくても、全然興味がないみたいだ。話しかけたときぐらいこっちを見てくれないかな。

別にいいんだけどさ、住む世界が違うってわかってるし私なんて面白くもなんともないし。

でもね、名前も呼ばれたことないんだよ? 時々じっと眺められるだけ。 さすがに悔しいなって思ったりする。

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