ビルに願いを。

「俺に何か言いたいことある?」

急に振り返って聞かれた。見てたのわかった?

「はい、あの、丈さんは言葉遣いがきれいだなって思っています」

考えていたことがつい口に出た。いや違う、そういうこと聞かれてない。驚いてとっさに出てきてしまった言葉を取り戻したい。

丈さんも予想外だったのか、目を見開いて一瞬止まった。

「……ありがとう。俺はね、気になってることあるんだけど」

そうですよね、直して欲しいこととかそういう意味で聞かれましたよね。でも無表情をどうにかしてとか言えないので、もう今ので私はいいです。はい。

「丈さんって呼ぶのやめてくれない? あとその変な敬語も」

「え、でも上司ですし、多分年上ですし」

「年は俺の方が下だよね? 5年働いてるって言ってなかった?」

あ、私の経歴を覚えていてくれたりするんだ。

「28ぐらいでしょ? 俺24だよ」

28? 驚いて、すぐ訂正することができなかった。

パクパクして声を出せずにいたら、「日本の大学って22で卒業じゃなかった? まだ27?そんなに変わんないけど」と1人で続けている。

「23です。高卒ですみませんけど!」

しまった、大声を出してしまったと後悔しつつ、これ以上何か言いたくなる前にトイレに逃げる。



「誰が28だー!アラサーなわけあるかー!」

誰もいないのを確認して個室で小さく叫んでみて、虚しくなった。

ていうか、年上だと思ってたから冷たい割に一応丁寧だったの?

もしかして、ケイティは年上なのかもと思い当たる。きっと、そうだ。



< 30 / 111 >

この作品をシェア

pagetop