そのイケメン、オタクですから!
「はぁい。ゆうぴょんご主人様、愛情いっぱい入ってまぁす」
赤い液体を注ぐと、「……ありがとう」とセノジュンレッドが呟いた。

常連様には下のお名前を聞いて、もえもえなあだ名をつけることが多いんだけど。

ゆうぴょんご主人様……そうか、呼んでいて気付かなかった。

ずっと前に聞いたセノジュンレッドの名前は確かにゆうと、だったんだ。

ゆうぴょんご主人様との顔の距離は40㎝ってとこだけど、絶対目を合わせてくれないからばれそうにない。

大丈夫……だよね?

「ナナちゃーん、今日も可愛い!」
背のジュンジャーのおかげでセンターをゲットして、歌いなれた歌に踊り慣れたダンス。

なのにレッドの視線の先が気になって、緊張しすぎて3回も歌詞を間違えた。

「今日のナナちゃん調子悪いね。大丈夫かな」
とヒーロー達が耳打ちしてるのも聞こえないふりして、作り笑顔でステージを降りる。

……せっかくのセンターだったのに、これじゃ次の指名は期待できないよ。

玄関で彼らの背中を見送ったら、どっと汗が噴き出した。

はぁ……。
終わった……。

こんなのが何回も続いたら身が持たない。
だからってこんなにいいバイトを辞めるわけにはいかないし。

メイドカフェのバイトは今しかできない事だし楽しい。
だけど私は将来アイドルを目指しているわけでも女優になりたいわけでもないんだよね。

人に嘘をつくのは苦手だからウィッグつけて学校に通ってるのに。

毎日毎日及川先輩にばれないかヒヤヒヤするなんて心臓に悪い。

「ナナ、ゲームのご指名」
「はぁい。すぐ行きまぁす」

やった、200円ゲット。
っていつもみたいには思えないけれど、切り替えなきゃ。

慣れるしかないってことだよね。
セノジュンレッドの様子からして、ナナが私だとは気づきそうにもない。

他の背のジュンジャーは学校では見かけたことがないから、留愛の事を知ってるのは先輩だけだし。
いつも通りにしていれば大丈夫だよね。

うん、何とかなるなる。

今まで色々なことがあったけど、私は基本的にはポジティブだ。
笑顔と前のめりなくらい前向きな行動でどんな事も乗り切ってきた、と思う。

よし、頑張るしかない。
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