そのイケメン、オタクですから!

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及川先輩と別れて電車に乗り込み、自宅の最寄り駅で降りた。

「うー、せっかく電車で暖まったのに、また寒くなっちゃった。
で、どうだった? 二人きりで勉強」とよっちゃん。
声には少し、面白がるような響きがある。

「先輩の教え方、本当に上手いの。厳しいけど」
「へぇ、良かったね。で、ドキドキした?」

よっちゃんは恋バナが好きだ。
先輩が実はオタクだって話をしてからは勝手に、実は留愛とナナが同一人物だと知った先輩が私を好きになる、という妄想を膨らませている。

ありえないっての。

「別に。ナナだってばれないかは緊張するけど、それも結構慣れたし」
「ふぅん。留愛は先輩のことどう思ってるの?」

自分の妄想をどうしても現実にしたいらしい。
めげない上に、質問がストレートすぎる。
ジュースでも飲んでたら吹き出してるとこだよ。

どうもこうもない。
及川先輩は思ったよりいい人だけど、それだけだもん。

「何とも思ってないよ。先輩、隠れオタクだし」

先輩がオタクだなんて、本当はもう気にしてない。
オタクってスマホで検索したら、自分の趣味に傾倒する人って書いてた。

先輩、傾倒してるのかな……?
メイドカフェに通ってることは知ってるけど、それ以外はどんなアニメが好きとか、家にフィギュアが満載だとか聞いたことがあるわけでもない。

オタクだと思うのは失礼なのかな。
そもそもオタクって悪いイメージの言葉だけど、そんなに悪いものでもない?
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