そのイケメン、オタクですから!

3

昨日はノリノリで魔法なんてかけちゃったけれど……。
一日で後悔している私。

「留愛! 今日は一段とひどいね……」
私の顔を見た途端、おはようも言わずによっちゃんが眉を寄せた。

確かに昨日はほとんど眠れなかったから、地味メイクも必要なさそうなくらい顔色は悪いと思う。

「そうかな。そうだよね……」
「だ、大丈夫。留愛本当は可愛いんだし」

声を潜めてフォローしてくれるよっちゃんと同じトーンで、私も返す。
「今日、先輩と話するんだ」

「今日? ってことは」ってよっちゃんの顔が輝いたけど、私の表情を見て察したらしい。

彼女は決意した顔で一言だけ言った。

「私も今日、頑張る。
留愛、今日だけはお店来ないでね」

お店っていうのはもちろん健くんの定食屋さん。
よっちゃんもとうとう覚悟を決めたんだ。

今日は火曜日。
生徒会がある日だから何も言わなくてもゆうぴょんご主人様、じゃなくて及川先輩に会える。
でも約束しとかなきゃ、私はきっと逃げちゃう。

「放課後二人だけで話がしたいです。会長室にいて下さい」
震える指でボタンをクリックした。

「わかった」
たった4文字の返信では、先輩の心は伺えない。
いつも活動している生徒会室の奥には机と椅子、本棚があるくらいの小さな会長専用の部屋がある。

今日はきっと屋上も体育館裏も落ち着かないから、そこが一番いい。

1時間目は自習になったのもあって、教室中がざわざわして落ち着かない。
私もずっと上の空で午前中を過ごした。

お昼を一緒に食べようと誘いに来てくれたよっちゃんと机を向かい合わせにしていると、背中から「七瀬ちゃん、ちょっといい?」と声がかかった。

振り向くと気まずそうに桜井先輩がドアの傍に立っていた。
手には色とりどりの袋を抱えている。

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