【短編】Once more

「どうした? 眉間にシワ寄せて」

「何でもない」


家に帰ってからも、気持ちは落ち着かなかった。

珍しく私のことを気にかけてくれた彼氏にも、そっけない態度をとってしまう。


「会社で何かあった?」

「別に」


やつあたりだって分かっていても、今は誰かを気遣う余裕さえない。

寧ろ、放っておいてほしい。構わないでほしい。

こういう時、同棲なんかしてなきゃよかったって本当に思ってしまう。


「んー、気分転換にどこか出かけるか?」

「行かない」

「じゃあ何か食べる?」

「いらない」

「……あっそ」

「何よその態度?」

「お前こそ何だよ」


あーっ、うるさいうるさいうるさい。

両手で耳を塞いで目を固く閉じる。

何も聞きたくない、考えたくない。

酷いことしているって分かってる。

だけど、どうしようもないんだもん。


ガタンッ――。


激しくドアが閉まる音が聞こえて静かに目を開けると、部屋に彼の姿はなくなっていた。


「はぁ……」


座っているソファーにゴロンと寝転がる。

最悪。

彼は何も悪くない。

頭ではそう理解しているのに心がついていかない。


「ごめんね……愁」


呟いた言葉が彼に届くはずもなかった。



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